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※本コンテンツの一部はClaudeも参考にしています。
涼介は、初めて心から好きになった人だった。
20歳の時。
出会いは、軽井沢のアウトレットだった。

私は昔からおしゃれが好きで、高校時代は同じクラスの美香と休み時間にファッション雑誌を読んでいた。

地元の軽井沢を出て東京の店で働くことへの憧れを抱きながら、結局一歩も踏み出せないまま、アウトレットで働く道を選んでいた。

涼介はスーツが似合う人だった。
都会的な雰囲気をまとっていて、いかにも「東京の人」という感じがした。
「服って不思議なんだよ」と言って、自分に似合うものを着るだけで人が変わる瞬間が好きだと話す涼介を、私はたまらなくかっこいいと思った。
いつかは東京に帰る人。
絶対好きになってはいけないと決めていたのに。
私は底なし沼のように恋に落ちた。

付き合うことはないまま、お互いの寂しさを埋めるために体を重ねた。
私たちはあまりにも、大人になりきれていなかった。
先の人生なんて考えるわけもなかった。若さほど怖いものはないと知るのは、ずっと後のことだった。
24歳で妊娠がわかり、涼介と結婚した。

東京へ出た。
それだけで、夢が叶ったような気がしていた。
でも、現実は違った。
晴斗が生まれてから、涼介の帰りはどんどん遅くなった。
休日も仕事。育児も家事も、ほとんど私ひとりでこなす。
一緒に過ごす記憶の中に、涼介の姿はほとんどない。

ある日、涼介が段ボールに荷物を詰めながら言った。
「2カ月は家賃を払う。おまえもそれまでに出ていってほしい」
離婚を切り出したのは、涼介のほうだった。
他に好きな人ができた。
あまりにもあっけない理由に、涙よりも先に、かすれた笑いが出た。
「……地元の人に見られたら最悪だろ」と、休みの日に離婚届を自分で出すことすら拒んだ。
涼介はずるい。
こんなにも小さな男だったのか、と呆れるしかなかった。

それでも、と思う。泣きながら、思う。
本当に、大好きだった。
彼がアイロンをかけたシャツを気持ちよく着てほしくて、眠くても疲れていても、アイロンをかけた。
晴斗が寝た隙に、慌てて。
涼介がアイロンのかかったシャツを着るとき、無言で私の頭を撫でた。

その感触が、好きだった。
でも、もう終わった。
涼介との結婚生活を振り返りながら、ふと、ある夜の記憶が浮かんだ。
地元の飲み会で、拓也という男に「今、幸せ?」と聞かれたこと。
あの人は、
どんな答えを求めていたんだろう——

「……こんな私じゃ、涼介も嫌だったよね」
テレビをそっと消す。画面が暗くなった液晶に、泣きはらした自分の顔が映った。
ぎょっとした。
こんなにも無様な顔を、私はしていたのか。
《瑠璃の景色》








