【瑠璃を照らす光】第五章 生きること

瑠璃を照らす光

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幸せそうなカップルを見かけたのは、仕事の帰り道だった。

新宿の交差点。並んで歩く二人。男の人が、女の人の荷物をさりげなく持ち替えた。

それだけのことだった。なのに、足が止まった。

——恋したいな。

いつぶりに思ったことだろう。
ずっと忘れていた感覚が、ふと、戻ってきた。

33歳。
パートから契約社員を経て、6年目でやっと社員になった。

つまり、離婚して6年が経った。

収入が安定したことでシェアハウスを出て、狭い部屋だがマンションを借りることもできた。

晴斗の成長とともに、自分も少しずつ前に進んでいる。

でも、仕事と晴斗のことで頭がいっぱいの毎日の中で、恋愛のことなど考える余裕はなかった。

——このまま出会いもなく、一人で人生を終えるのだろうか。

信号が青に変わった。私はまた歩き始めた。

夏のセールが終わり、お疲れ様会が開かれた。

同じ商業施設で働くスタッフに声がかけられ、各店舗から参加していた。

たまたま晴斗が始めたサッカークラブの合宿があり、久しぶりに一人で過ごす夜だった。

帰り道でスマホを開くと、インスタグラムに見知らぬアカウントからメッセージが届いていた。

お酒が入った勢いで、スタッフ同士でアカウントを教えあったのだ。

そうだ、東京タワーが見たいよね。
と話した人だ。

東京の名所なんて東京タワーかスカイツリーしか知らなかった。適当に盛り上がるネタとして出したんだ。

丁寧な文章だった。
何度かやりとりするうちに、不思議と話しやすかった。

3歳年下の、穏やかな人。

「今度ランチに行きませんか?」

はじめは戸惑った。
私なんかと、なぜ。

「時間が合えば」

その後は自然とやりとりが終わった。
その夜はそれだけだった。

ふと、たまっている洗濯物を思い出した。

新しい出会いなんて、恋愛なんて、今の私には贅沢すぎる話だ。

スマホをかばんにしまって、家に向かった。

晴斗が中学生になった頃から、家の空気が変わった。

「うるせーな」「あっち行けよ」

毎朝、声をかけるたびに壁に跳ね返ってくるような言葉が返ってくる。

さくらさんが「男の子って、そういうもんだよ」と言っていたのを思い出して、頭ではわかっていた。

でも、わかっていても、しんどかった。

とっくに背も越された晴斗の存在が、怖い時もあった。

ある夜、些細なことで口論になった。
晴斗が突然、腕を振り上げた。

後頭部を殴られた衝撃で床に倒れ込んだ。
何が起きたのかがわからず、起き上がるのに時間がかかった。

痛かった。
体よりも、心が。

晴斗が部屋に戻っていく後ろ姿を見ながら、私は涙が止まらなかった。

私の育て方が悪かったんだ。

そう思った。

離婚した私が、晴斗をひとりで育てようなんて、そもそも無理だったんだ。

父親がいないから、晴斗はこうなったんだ。

全部、私のせいだ。

涼介はずるい。

その言葉が、頭の中に浮かんだ。
ずるい。
私だけが全部背負って、私だけがこんなに傷ついて。

なんで涼介は、何もなかったように生きているんだろう。

悔しくて、腹が立って、でも誰にもぶつけられなくて、ただただ泣いた。

恋がしたいなんて、一瞬でも思った私が馬鹿だった。

《瑠璃の景色》



この記事を書いた人
hamum

恋愛を楽しんで欲しい!その思いでこのサイトを作りました。結婚相談所で長くライターをしていた時、たくさんの恋愛サイト、恋愛本を読みました。そしてわかったことが「恋愛は難しい」ということ。私は恋愛が苦手です。決して恋愛の先生ではありませんので一緒に恋愛を学んでいきましょう。映画やドラマ、おでかけもつぶやきます。

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